DanceDanceDance@YOKOHAMA2018 事業報告書
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舞踊評論家 乗越 たかお 盛りだくさんの内容ではあるが、市民を巻き込んで盛り上げるイベント的な部分から、ダンスそのものを知ってもらうための教育的な企画、しかもダンスを狭義に捉えるのではなく、幅広い身体表現として捉えたダイバーシティを体現していた。のみならず、しっかりと芸術的なプログラムも充実していたところが、さすがだった。初来日カンパニーや日本のアーティストに新作を作らせるなど、「新しい価値の創造への挑戦」に満ちていて、運営側の気概を感じた。しかもいくつも完売になる公演があった。これは「これまで見に来なかった観客を開拓した」ということであり、驚異的な成果として結実している。たんに「盛り上がれば成功」、というような商業イベントとは一線を画す、「横浜市が文化に取り組む姿勢」をしっかりと見せてもらった。 「横浜の“街”そのものが舞台」「「リヨン・ダンス・ビエンナーレ」との連携」、「クリエイティブ・インクルージョン」、「クリエイティブ・チルドレン」といった目標も、当初は「多すぎるのではないか」と思ったが、終わってみれば十分にその責務を果たしたといえると思う。ダンス研究者・ダンスドラマトゥルク 中島 那奈子 トップアーティストプログラムだけでなく、市民参加や次世代育成のためのプログラムを、ともに開催したことを評価したい。ダンスを学ぶことは稽古事というだけでなく、ダンス層を拡大し、新しい観客の開拓にもつながる。ダンスの世代間の連携をより強くしていくことは、日本のダンス業界の将来にとって必要とされている。 また、「うまく踊る」という達成度だけでなく、「より自由に、より自分らしく踊り、見る」方法を通して、学校教育で解決しきれない問題をダンスで探求する可能性も模索できるだろう。その一つとして、劇場の舞台を使用して行われたミュージカルのワークショップは、ミュージカルでの顔の向き、身体の動きや声の大きさが、具体的な劇場構造に起因していることが実感できる、非常に効果的なものであった。ミュージカル自体、見るものに夢や希望を与える典型的なジャンルであり、それは思春期の中高生がより必要としていることかもしれない。劇場の舞台に立つだけでも、受講者は誇りを持ち、ミュージカルのダンスを理解するいい機会になったのではないか。96
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