Dance Dance Dance@YOKOHAMA 2021

舞踊の情熱

Vol.1 中村祥子 出演『椿姫のためのエチュード』

2021年8月28日(土)から10月17日(日)まで、

日本最大級のダンスフェスティバル「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」を開催いたします。

 

こちらでは、9月18日(土)神奈川県民ホール大ホールで行われる「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」についてご紹介してまいります。

 

この公演は、世界的振付家のマスターピースに日本のダンサーが挑むプログラムです。

 

20世紀初頭、伝説的なダンサーであるヴァーツラフ・ニジンスキーらが活躍した「バレエ・リュス」が舞踊のみならず音楽や美術にも大きな影響を及ぼしました。

そして、21世紀の現在に至るまで数々の名振付家が登場し、バレエの領域は拡大しています。

 

同時に、多くの日本のダンサーが、国内外の第一線で活躍する時代となりました。

この2つの文脈が交差して生じる化学反応をご覧いただけるように準備を進めています。

 

8作品の上演を予定しておりますが、最初にご紹介するのは、振付:モーリス・ベジャール×出演:中村祥子『椿姫のためのエチュード』です。

 

モーリス・ベジャール(1927~2007年)といえば20世紀を代表する振付家。

生と死、エロスとタナトスというテーマを一貫して追い求め、数々の名作を遺しました。

 

『春の祭典』『ボレロ』はもちろんのこと、ベジャール作品の申し子と呼ばれたジョルジュ・ドンとロックバンド「クイーン」のボーカルを務めたフレディ・マーキュリーに捧げられた『バレエ・フォー・ライフ』も晩年の名作として親しまれています。

 

親日家としても知られ、東京バレエ団に『ザ・カブキ』や『M』を振付しました。

 

Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021ディレクターの小林十市はベジャールのもとで活躍し、現在もベジャール作品の振付指導に携わっています。

 

中村さんは6歳よりバレエを始め、1996年、ローザンヌ国際バレエ・コンクールでスカラーシップ賞、テレビ視聴者賞を受賞。ドイツのジョン・クランコ・バレエスクールに留学後、シュツットガルト・バレエ団、ウィーン国立歌劇場バレエ団を経て、ベルリン国立バレエ団、ハンガリー国立バレエ団において最高位プリンシパルを務めました(現在はKバレエカンパニー名誉プリンシパル)。

 

日本を代表するバレリーナであることは疑いありません。

 

中村さんか挑む『椿姫のためのエチュード』を初演したのは、クリスティーナ・ブラン。

小林ディレクターの公私にわたるパートナーであるブランは、モーリス・ベジャール・バレエ団(正式名称:ベジャール・バレエ・ローザンヌ)の中核として活躍しました。

 

「椿姫」といえば、アレクサンドル・デュマ・フィスの小説、またはそれに基づくヴェルディの歌劇が著名です。
バレエでは、べジャールと親交があったジョン・ノイマイヤーの大作や英国バレエのパイオニアであるフレデリック・アシュトンが遺した『マルグリットとアルマン』が知られています。

 

ベジャールは椿姫=マルグリットのソロとして描きました。

舞台上には一脚の椅子。ショパンのピアノ曲(編曲:フランツ・リスト)に導かれ踊るマルグリットが想うのは、愛するアルマン。

美しい音楽と繊細かつ大胆なダンスからマルグリットの心情が浮かび上がります。

 

中村さんは、ベルリン時代に『これが死か』と『ニーベルングの指環』を踊っており、今回が久々のベジャール作品出演。

 

小林ディレクターの指導のもとで、中村さんの深みのある表現力が存分に発揮されるに違いありません。

ぜひ、ご期待ください。

 

 

 

『椿姫のためのエチュード』
振付:モーリス・ベジャール
出演:中村祥子
音楽:フレデリック・ショパン、フランチェスコ・チレア
編曲:フランツ・リスト

 

公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

Vol.2 佐久間奈緒&厚地康雄インタビュー 『スパルタクス』よりパ・ド・ドゥ【日本初演/Japan Premiere】

「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」の出演者紹介第2弾は、佐久間奈緒さん(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)と厚地康雄さん(バーミ ンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)です。

 

長年英国の名門バレエ団で活躍してきた2 人が踊るのは「スパルタクス」よりパ・ド・ドゥ(振付:デヴィッド・ビントレー、音楽:アラム・ハチャトゥリアン)。

公私にわたるパートナーであるお2人に、師匠のビントレーさんの大切な作品を日本で踊ることへの思いを語っていただきました。

 

――コロナ禍のバーミンガムでどう過ごされてきましたか?

 

佐久間 バレエ団でのクラス指導やリハーサルも全てなくなってしまったので、自宅でできるバーレッスンやエクササイズをしていましたが、やはり運動不足に感じ、ジョギングをしたりしていました。
あと、イギリスの学校は閉校の期間も長く、授業を進めるのはホームスクーリングといって、自宅で両親が科目別に教えないといけなかったので大変でした。

 

厚地 2度の大きなロックダウンがあったので、体のコンディションが戻るまでに時間がかかりました。
リビングルームでできる程度の自習やエクササイズをしていたのですが、大きなスタジオと広さが変わると運動量は全然違うので、筋力が落ちていると感じました。特にジャンプが元のように感じられるようになるまでは苦労しました。

 

――バーミンガム・ロイヤル・バレエ団では、2019年に芸術監督がデヴィッド・ビントレーさんからカルロス・アコスタさんに変わりました。何か変化を感じていますか?

 

厚地 僕は2006年に入団しました。デヴィッドの薦めもあり、新国立劇場バレエ団で踊っていた時期もありますが、この2つのバレエ団の芸術監督が彼だったため、違う監督と仕事をするという経験はありませんでした。バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の長く在籍しているダンサーたちも、彼の監督在任がほぼ25年と長かったために、誰もディレクションが変わるということを知らなかったのです。
デヴィッドの下では上演がなかった「ドン・キホーテ」(アコスタ版)からコンテンポラリーの新しい振付のクリエーションまで、レパートリーはかなり変わったように感じます。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」出演の経緯は?

 

厚地 「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」のディレクター小林十市さんとは以前、今回のディレクター補佐の山本康介さん(同じくバーミンガム・ロイヤル・バレエ団出身)の作品に出演した時に面識がありました。当時まだ若かった僕を褒めてくださって、とてもうれしく思いました。今回も康介さんから出演依頼をいただきました。

 

佐久間 私も康介くんからデヴィッドの作品の中から何か踊ってほしいとお話をもらいました。

 

――ビントレーさんの「スパルタクス」よりパ・ド・ドゥを踊ることに決めた理由は?

 

佐久間 デヴィッドに何を踊れば良いかと相談したら、彼がバレエ団を離れるシーズンに作った「スパルタクス」よりパ・ド・ドゥはどうかと提案されました。彼はこのバレエを全幕で作りたいという構想があるようで、まず手始めにこの部分をガラ公演のために振付したのです。その初演時に私は踊らなかったのですが、すぐに映像を送ってくださって、康雄くん、そして康介くんとも相談して決めました。
指導に関わるようになって以前ほどは踊っていないので不安もありましたが、デヴィッドもバーミンガムの「シンデレラ」の上演時期にリハーサルをしてあげるよと言ってくれたので心強かったです。

 

厚地 デヴィッドは凄くうれしそうでした。最初の1回だけでは満足していない部分もあったみたいで、初演時よりも変わったバージョンでやっています。僕たちが踊ってくれてうれしいと彼自身も喜んでくださいました。
リハーサルもコロナ禍に対応しており、本番もある忙しい時期に本当に丁寧に見て下さったので感謝しています。

 

――「スパルタクス」はローマ時代の反乱軍の首領であるスパルタクスを描いています。今回踊るのは、スパルタクスと妻のフリーギアの別れの場面です。「スパルタクス」といえば、ボリショイ・バレエが上演しているユーリー・グリゴローヴィチのバージョンが有名ですが、ビントレーさんのパ・ド・ドゥの特徴はどこにありますか?

 

佐久間 皆さんの知っているバージョンと違うところは、フリーギアのお腹の中に子供がいることを伝える点です。
演劇性を持ってどういう場面かわかりやすくするために、そこを強調しています。

 

――リハーサルでビントレーさんはどのように膨らませたのですか?

 

厚地 最初はビデオを見て振りを覚えたのですが、1つ1つのステップのニュアンスを教え、直してくれました。デヴィッドの作品は注意されればされるほど振付が大変になるんですよ。デヴィッドの希望通りに全部やっていくと、どんどん大変になっていくんです(笑)。

 

佐久間 初演時のステップや動作を少し見直したり、また私たちにも合ったように細かい部分も精査したりしながら進めていきました。彼との久しぶりのリハーサルはいまだに新鮮で、そして懐かしい思いでいっぱいでした。

 

――ビントレーさんの作品は音楽的だと称されますね。

 

佐久間 デヴィッドの音楽性はとても繊細で、動きと旋律が沿って動くような気がします。
彼の演劇的解釈とその動きが合うと、音楽やパートナーに身を委ねてとてもスムーズに踊っているような感じです。

 

厚地 デヴィッドの作品を踊りながらダンサーとして育ててもらったようなものなので、ここはこう動いて欲しいのかなとか、ここはこんなことを伝えたいのかなというふうな感じはわかります。でも、あらためてそれを体で表現することの難しさに向き合っています。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」は、世界的振付家と日本人ダンサーのコラボレーションというのがコンセプトです。他にも国内外で活躍しているダンサーの方々が登場します。参加するにあたっての期する思いは?

 

厚地 偉大な振付家の作品を背負う役割とそれらの踊りが自然に見えるよう、そしてお客様にも楽しんでいただけるように、心を込めて踊りたいです。

 

佐久間 私にとっても新しい作品と向き合うことができたので、その練習の成果、そして何よりもこの作品の良さを感じていただきたいです。

 

厚地 皆さんがいろんな趣向やスタイルのものを踊り合っていくということが素晴らしいと思います。自分も影響しつつ、されつつ同じ舞台に立てることを楽しみにしています。

 

佐久間 そうですね。皆さんの踊られる演目を拝見できるのも嬉しいです。

 

――久々に日本でビントレーさんの作品を踊ることへの意気込みをお願いします。

 

佐久間 康雄くんと日本でデヴィッドの作品を踊れることは、私にとって特別な機会です。
今だからできる踊りで初挑戦する「スパルタクス」、気持ちを込めて踊ります。

 

厚地 デヴィッドは「シンデレラ」の指導期間中、長時間のリハーサルの後でも時間と労力を惜しまず見てくれました。そして何より、彼なしでは僕はここまで来られなかった。ダンサーであったり、プロフェッショナルであったり、芸術家がどういうものなのかを仕事を通して教えてくれました。
そんな彼に感謝の気持ちを込めて踊りたいです。

 

佐久間 どこかのバレエ団が全幕を作りたいといってくれないでしょうか(笑)。

 

――厚地さんは「二羽の鳩」よりパ・ド・ドゥ(振付:フレデリック・アシュトン)を島添亮子さん(小林紀子バレエ・シアター プリンシパル)と共演します。抱負をお聞かせください。

 

厚地 「二羽の鳩」は最初にバレエ団でコール・ド・バレエ(群舞)をやった時に衝撃を受けました。まず音楽の美しさに心打たれました。今回やるパ・ド・ドゥが大好きで、毎回袖から見ていました。全幕で主役をやったことはないのですが、ガラで奈緒さんと数回踊りました。特に終盤の部分は今でも舞台上で胸が高鳴り、大好きな作品です。
島添さんは”ザ・主役”という感じの方。掛け合いが大事な作品なので、2人でどのように積み上げていくのかというプロセスも楽しみです。

 

――「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」は「横浜の“街”そのものが舞台」というのがコンセプトです。横浜に関する思い出等はありますか?

 

厚地 僕は遊びに何回も行ったことがあって好きです。海もあり気持ち良く、街並みもきれいですよね。
ガラ公演に出る機会が何度かあって、その時も中華街に行きました。

 

佐久間 バーミンガム・ロイヤル・バレエ団が2011年に鎌倉芸術館で「眠れる森の美女」 を踊った時の宿泊先が横浜でした。
残念ながらその時は街を楽しむ時間がありませんでしたが、今回はいろいろ周ってみたいです。中華街は行ってみたいです。

 

イギリスのご自宅とお繋ぎして、Zoomでインタビューをさせて頂きました。

 

『スパルタクス』よりパ・ド・ドゥ【日本初演】
振付:デヴィッド・ビントレー
出演:佐久間奈緒、厚地康雄(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)
音楽:アラム・ハチャトゥリアン

 

公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

Vol.3 鳴海令那&小㞍健太インタビュー 『A Picture of You Falling』より

「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」の紹介第3弾は鳴海令那さんと小㞍健太さんです。お2人が踊るのはクリスタル・パイト振付『A Picture of You Falling』より。名門パリ・オペラ座やロイヤル・バレエからも創作を依頼されるパイトは今最も注目されているといっても過言ではない21世紀の名振付家です。ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)などを経て以前研修生として所属したパイトのカンパニーKidd Pivotに戻り団員として踊る鳴海さん、NDT出身で現在日本を拠点にダンサー、振付家として幅広く活躍する小㞍さんに、パイトの創作の裏側や公演への意気込みをお聞きしました。

 

――クリスタル・パイトとの出会いはいつですか?

 

鳴海 フランスを経てバンクーバーに拠点を移した時に初めてクリスタルの舞台と出会いました。『Lost Action』(2006年)という作品でした。当時クリスタルも現役で踊っていて、彼女のパフォーマンスに一瞬にして魅了されました。動きやダンサーのクオリティ、作品の構成も興味深く鳥肌が立ちました。Kidd Pivotで研修生として2年過ごせたのは本当に貴重な経験です。クリスタルはいつも優しく、そして、さまざまなアイディアにあふれている方で彼女の考えや発想にとても刺激を受けました。

 

小㞍 僕がNDTに在籍していた2004年に、アンダーシュ・ヘルストロン(元フランクフルト・バレエのダンサー)が芸術監督になり、クリスタルがゲスト振付家としてNDT1に招聘された時に初めて会いました。僕はまだNDT2だったので客席から見ていたのですが、彼女はウィリアム・フォーサイス(フランクフルト・バレエを率いて現代バレエに革新をもたらした振付家)の元で踊っていたのでその影響も強いと感じると同時に、クリスタルの振付はアイソレーション(特定の部位を強調して動かすこと)など技術的な身体性が、不思議と身近なストーリーと交わりエモーショナルに見えてきてとても魅かれました。その後、NDTの在籍中に彼女のクリエーションに4回ほど参加しましたが、イリ・キリアン(NDTを世界的舞踊団へと押し上げた巨匠振付家)とは違うプロセスで毎回僕にとって新しい経験となりました。

 

――パイトのクリエーションはどのように進むのですか?

 

鳴海 作品によって進行の仕方が異なりますが、アイディアや構成などはスタジオで実際にクリエーションに入る時にはいつも準備万端です。振付(動き)自体はクリスタルのフレーズがあって、それをダンサーたちが組み替えたり、タスクを動きに変えたりします。あと、彼女がリードしてインプロ(即興)のセッションをしてシーンを作り上げることも多いですね。彼女からあたえられたタスクを忠実に磨き上げていただけなのに、気が付いたら作品になっているというマジックがあります。

 

小㞍 振付のコンビネーションが断片としてあるんです。そのコンビネーションは、クリスタル自身が作ったものもあれば、肩を回して体をひねりながら振り向いたりなどという動作のタスクをあたえられダンサーが作ることもあります。また、シンプルなジェスチャーのアプローチも多くて、「黄昏のポーズを作って!」というのは印象的だったので覚えています(笑)。そうしてできたコンビネーションをキャスト全員でシェアして、それらを基にユニゾンやデュエットなどさまざまなパートが出来上がっていきました。

 

――今回踊られる『A Picture of You Falling』は「The You Show」(2010年)という作品の中の1パートだそうですね。「The You Show」はどういう作品なのですか?

 

鳴海 「The You Show」とは公演タイトルです。このクリエーション前に作られていた作品『A Picture of You Falling』と+3つの小作品(デュエット)で構成されています。『A Picture of You Falling』は男女のデュエットで相手がいるけどいないような、会話があるようですれ違っていくような切なさがあります。2番目の『The Other You』は健太さんも踊られたことのある作品で、男性デュエットの双子のような、もう一人の自分の存在に気付かされるような作品。続く『Das Glashau』は男女の複雑な関係性を感じさせるデュエット。最後の『A Picture of You Flying』は、スーパーヒーローの心の内をベースにしたデュエットがメインのグループ作品になります。この作品は私にとってクリスタルとの初めてのクリエーションでした。

 

小㞍 4つの小品集である「The You Show」について、レペティター(振付指導者)が話してくれたのですが、クリエーション当時クリスタルが妊娠していて動いて見せることができないこともあり、振付の大部分はダンサーに託されたそうです。クリスタルからのタスクを各々のダンサーが動きに変えながら創り出した作品なので、全ての要素に”あなた”が含まれている意味もあると聞きました。 今回はそのうちの1つ『A Picture of You Falling』の抜粋を踊ります。このパートはもともとNDTで初演された『The Second Person』(2007年)の一部でもあります。実は僕が初めて踊ったクリスタルの作品で、いまだに独特なナレーションを聞くと当時のクリエーションのことを思い出します。このパートは、当時NDTに在籍していたベテランのダンサーが踊っていたデュエットだったので、こうしてこの歳になって踊れることがうれしいです。

 

鳴海 健太さんのNDTでの素敵な思い出と同様、私にとっても研修当時の風景が蘇ります。オリジナルキャストの素晴らしいダンサーたちを間近で見ていて大好きな作品でしたし、いつか踊ってみたいと思っていたので、こうして踊る機会をいただけて私もとてもうれしいです。

 

――『A Picture of You Falling』にはナレーションが入ります。2019年にNDT日本公演で上演された『The Statement』(2016年)もそうでしたが、パイト作品には台詞が入ることが少なくないようですね。動く時にどう感じますか?

 

小㞍 自身で発する言葉だとやはり感情が入ったりしますが、音楽のように捉えているのか、感情が先にないのです。素直に入っていけます。

 

鳴海 私の中ではテキストも音楽と捉えているので言葉の有無で変わりませんが、踊っていると操られてるように感じたり、こちらが逆にリードしていけたりします。クリスタルのストーリーラインと共に常に自分でもリサーチし進化していけるスペースがあるように感じます。

 

――今回、お2人のリハーサルはどのようにするのですか?

 

小㞍 カナダ在住のクリスタル、またはアメリカ在住のレペティターからリモート指導を受ける予定です。令那ちゃんとは、知り合って10年以上で仲はいいのですが、NDTでも被っていないので、実は今回初めての共演です!

 

鳴海 リモートリハーサルを通して、皆でこの作品をシェアできるのがとても楽しみです。健太さんは尊敬するアーティスト。ローザンヌ国際バレエコンクールに出ていらした時から健太さんの踊りが好きで拝見していました。今回一緒に踊れて本当にうれしいです。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」では世界的振付家の作品を国内外で活躍する日本のダンサーが踊ります。出演が決まり何を思いましたか?

 

小㞍 ディレクターの小林十市さん、山本康介くん(DDD2021ディレクター補佐で本企画の構成・演出を担当)、中村祥子ちゃん、上野水香ちゃん、厚地康雄くんなど昔から知っているダンサーの仲間とこうして公演を作ることができるのはうれしいですね。日本に帰国してバレエ界からは「コンテンポラリーの人」って言われていますが、僕の体の中にはバレエがあって、その上でキャリアを積んできました。今回、バレエにはいろいろな幅と可能性があることを見せていける機会に声をかけていただけて光栄です。また、クリスタル・パイト率いるカンパニーKidd Pivotで活躍する鳴海令那ちゃんをぜひ日本の皆さんに知っていただきたいと思い、今回共演をお願いしました。初共演、楽しみです!

 

鳴海 健太さんから公演のお話をいただきとてもうれしいです。他にも素晴らしいダンサーの方々が出演されていて緊張もしていますが、貴重な舞台に参加させていただけて光栄です。先ほど、健太さんもお話しされていたバレエの幅と通じるのですが、日本では「コンテンポラリーダンス」の意味合いも広いので、日本に帰って来た時「どういうダンスをされているんですか?」と聞かれて返答に困ることがあります。「コンテンポラリーダンス」という名前が浸透してきているのは凄くうれしいですが、私がやっている踊りは「バレエ」の中の「コンテンポラリー作品」と捉えています。今回はバレエの中にも幅があること、進化していることをお客さんに感じてもらえるような、本当に素晴らしいプログラムです。出演者の皆さんの踊りを拝見できるのもとても楽しみです。

 

――「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」は「横浜の“街”そのものが舞台」というのがコンセプトです。横浜に関する思い出等はありますか?

 

小㞍 現在横浜に住んでいます。祖父母が横浜にいたので、親戚が集まるのはいつも中華街でした。中華街や山下公園、横浜スタジアムは思い出深い場所で、神奈川県民ホールにはバレエを見に来ていました。海外っぽいし開放感ありますね。

 

鳴海 日本にいた頃は家族でドライブに来ていました。中華街や赤レンガ倉庫のイベントに行ったり、ランドマークホールで行われたバレエの講習会を受けたりもしました。海が近くて開放感があります。近年新しくできた建物とかも素敵ですよね

 

――公演に向けての意気込みをお願いします。

 

鳴海 日本で踊るのは11年ぶりです。コロナになって長らく舞台で踊れていないので、純粋に本番の緊張感と劇場全体の空気感を大切にしたいです。そして、この作品を健太さんと共に楽しみ、私たちのパフォーマンスを通してクリスタルの世界をお客様にも感じていただけるとうれしいです。

 

小㞍 いいデュエットにしていきたいですね。男女の壊れていく関係性を表した切ない作品なのですが、2人の身体から、空間、会話、思い出、感情が走馬灯のように浮かび上がるダンスになれたらと思います。瞬間瞬間を大事にして、観客の皆さんに届くように踊りたいと思っています。

 

 



リハーサル中のスタジオの様子(稽古用動画からキャプション)

 

『A Picture of You Falling』より
振付:クリスタル・パイト
出演:鳴海令那(Kidd Pivot)、小㞍健太
音楽:オーエン・ベルトン

公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

Vol.4 スターダンサーズ・バレエ団『ステップテクスト』

2021年8月28日(土)から日本最大級のダンスフェスティバル「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」が開催中です。

 

9月18日(土)に神奈川県民ホール大ホールで行われる「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」が迫ってきました。

 

世界的振付家の名作に日本のダンサーが挑戦するプログラムです。

 

今回はスターダンサーズ・バレエ団の『ステップテクスト』をご紹介します。

 

この作品を振付したウィリアム・フォーサイス(1949~)はアメリカ出身で、現代バレエの大家です。

ドイツのシュツットガルト・バレエ団在籍時から振付を始め、のちにフランクフルト・バレエを30年にわたって率いました。

 

クラシック・バレエをベースとしつつ、それを解体・再構築した動き。ハードで研ぎ澄まされた独自の美を打ち立て、バレエの概念を変えました。

フォーサイスはバレエ界の寵児となり、その作品はパリ・オペラ座をはじめとした世界各地のバレエ団のレパートリーに入っています。

 

そうしたフォーサイスのスタイルをよく表したのが『ステップテクスト』です。

1984年にフランクフルト・バレエで初演された『アーティファクト』の第2部からピックアップされた作品で、1985年にイタリアのアテルバレットで初演されました。

 

バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番「シャコンヌ」が印象深く用いられ、女性1人、男性3人が、時にシャープに、時にしなやかに緊密なダンスを繰り広げます。「シャコンヌ」と繊細に変化する照明とともに生み出される傑作です。

 

スターダンサーズ・バレエ団が『ステップテクスト』を日本のバレエ団として初めて上演したのは1997年。以後再演を重ね、今年2021年3月にも上演しています。

演出・振付指導はフォーサイス作品に通じたアントニー・リッツィーです。

 

スターダンサーズ・バレエ団の創立は1965年。創設者の太刀川瑠璃子さん(故人)は、日本のバレエの創造に心血を注ぐと同時に、20世紀の名作バレエを日本に紹介してきました。

アントニー・チューダー、ジョージ・バランシン、ジェローム・ロビンズ、クルト・ヨース、ケネス・マクミラン、それにフォーサイスといった、そうそうたる巨星の作品です。

 

そして、現在の総監督・小山久美さんの時代になっても、常任振付家である鈴木稔さんの作品など新たなレパートリーを拡充しながら20世紀の名作群を紹介しています。

 

現代作品の上演に定評のあるバレエ団が、「舞踊の情熱」のコンセプトをソロ、デュオではない形で具現化する舞台にぜひご注目ください。

 

 

『ステップテクスト』
振付:ウィリアム・フォーサイス
演出・振付指導:アントニー・リッツィー
出演:スターダンサーズ・バレエ団(渡辺恭子、池田武志、石川聖人、林田翔平)
音楽:J.S.バッハ

公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

Vol.5 池本祥真(東京バレエ団)インタビュー 『M』

「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」の紹介第5弾は池本祥真さん(東京バレエ団)です。池本さんは王子役からキャラクター色の強い役柄まで幅広く踊っていますが、近年注目されているのが、モーリス・ベジャール作品です。本公演で今回踊るベジャールの『M』に向けての意気込みをお聞きしました。

 

――昨年(2020年)10月、東京バレエ団のベジャール振付『M』でⅣ—シ(死)を踊りました。「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」ディレクターの小林十市さんが1993年の世界初演時に踊った役でもあります。作家・三島由紀夫の文学と人生をテーマにしたバレエ作品の狂言回し的な役ですが、役作りをどのように進めたのですか?

 

池本 十市さんが指導に来てくださり、振りを教えていただきました。そこをベースに、十市さんの次にⅣ—シ(死)を踊られた飯田宗孝先生(東京バレエ団団長)やゲストで指導に来られた方々にアドバイスをいただき、自分の味付けをしていきました。

 

――「自分の味付け」というのは?

 

池本 リハーサルを重ねていくうちに、自然と自分の中から出てくるものを増やしていきました。十市さんもおっしゃっていますが、Ⅳ—シ(死)は多面的です。役名から思い浮かぶことが全部役柄に当てはまるんじゃないかなと思って、イメージを膨らませる作業をしました。たとえば「死」と聞いて怖いなと感じました。美しい死というのもあるかもしれないので、それを表現したかったです。「死」とは絶対的だと思うところもありました。

 

――三島の小説などを読んで役作りされたのかと思いましたが、そうではなかったとか?

 

池本 必要ならば読もうと思っていました。でも、踊っていく中で、三島由紀夫という存在を理解していないと踊れない、というわけではないと思いました。三島の話というよりも、一人の人間としての物語というか、誰にでもあり得る人生の話なのではないか。そこが、今、この時代に僕らが踊る上で大事です。

 

――Ⅳ—シ(死)を踊っての実感は?

 

池本 しんどいです(笑)。体力的にもしんどいし、1時間半以上休憩がないので集中していないといけません。自分の集中が途切れると、お客さんも離れてしまいます。僕がストーリーを作るというよりも、場面場面に意味を持たせていく。僕がコーディネートしてやる役だと思います。十市さんが教えてくださった振りと形に、場面場面の僕の思いをのせて踊ることによって、1つの作品として成立するんじゃないかなと。一場面、一場面を丁寧にやっていくと、素晴らしいものができあがっていくのを感じました。

 

――ベジャール作品では『ザ・カブキ』勘平、『ギリシャの踊り』ソロ、『舞楽』火の精なども踊られています。ベジャール作品を踊って感じている魅力とは?

 

池本 クラシック・バレエとは少し違う、ベジャールさんの形というのが強いんですね。その形をできるようになることで表現が出来上っていくんだなと感じます。僕が表現するというよりも、指導してもらった形をやった時に自分の存在としての魅力が凄く出ます。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」では、ベジャールの『M』を踊ります。これは『M』全幕からの抜粋ではないそうですね。『M』の「金閣寺」の場面でⅣ—シ(死)が踊るソロと、『ザ・カブキ』の由良之助のソロにより構成されています。小林十市さんがベジャールに振付してもらった特別なバージョンだとうかがいました。

 

池本 十市さんがロイヤル・オペラ・ハウスのガラ公演に出る時に創ってもらったそうです。ベジャールさんは十市さんに合うじゃないかと思われたのでしょう。

 

――小林十市さんによる指導が始まっています。リハーサルの印象はいかがですか?

 

池本 純粋にしんどいです(笑)。『M』の「金閣寺」を踊ったことはありましたが、由良之助は未知なので、柄本弾くんにまず振りと流れを教えてもらって、その後に十市さんに見ていただいています。十市さんがベジャールさんに見てもらって踊った時に「こうした方がいいんじゃないか」と教わったニュアンスを加えながらリハーサルをしています。

 

――具体的にどのようなアドバイスですか?

 

池本 作品や表現に関してよりも、「指は閉じたほうがいいよ」といった細かいニュアンスについてです。本当に細かいところから全体を作り上げていくリハーサルです。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」は、世界的振付家の作品を国内外で活躍する日本のダンサーが踊る企画です。出演が決まった時のお気持ちは?

 

池本 僕が1人で出て大丈夫なのかなと思いました。十市さんには「僕が責任をとるから、頑張って!」と励まされました。素晴らしい出演者の方々の中でソロを踊るのは光栄です。

 

――「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」のコンセプトは「横浜の“街”そのものが舞台」です。横浜に関する思い入れはありますか?

 

池本 よく遊びに行きます。みなとみらいとかを散歩するのが好きです。横浜自体が日本的ではないというか、海外のような雰囲気があるので好きですね。

 

――あらためて公演に向けての意気込みをお話しください。

 

池本 ベジャールさんの作品、しかも十市さんが初演されて以来やられていない作品を踊らせていただけるのは光栄でうれしいです。作品の良さをしっかりと届けたいです。

 

 

 

舞台写真は2020年11月、神奈川県民ホールで行われた『M』より(東京バレエ団提供)
Photo:Kiyonori Hasegawa / Kanagawa Kenmin Hall

 

 

『M』
振付:モーリス・ベジャール
出演:池本祥真(東京バレエ団)
音楽:黛敏郎
公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

Vol.6 島添亮子&厚地康雄『二羽の鳩』よりパ・ド・ドゥ

2021年8月28日(土)から日本最大級のダンスフェスティバル「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」が開催中です。

 

9月18日(土)に神奈川県民ホール大ホールで行われる「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」がいよいよ目前に迫ってきました。

 

世界的振付家の名作に日本のダンサーが挑戦する注目のプログラムです。

 

このたびは島添亮子×厚地康雄『二羽の鳩』よりパ・ド・ドゥをご紹介します。

 

振付したフレデリック・アシュトン(1904~1988)は、英国バレエを代表する振付家です。

 

アシュトンは南米ペルーでアンナ・パブロワが踊るのを見てバレエに目覚め、レオニード・マシーン、マリー・ランベールというバレエ・リュスと縁の深い振付家らに学びました。

1935年にヴィック・ウェルズ・バレエ(英国ロイヤル・バレエ団の前身)に入り、以後長きにわたって活躍し数々の名作を遺しました。

 

アシュトンは、マリウス・プティパ以来の古典的バレエに基づきながら英国的で洗練されたバレエを創造しました。

振付の特徴として、鋭いステップや優美な首、肩、腕の用い方が挙げられます。

小品だけでなく『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』や『シンデレラ』といった物語性豊かな全幕バレエも創作し、現在に至るまで広く愛されています。

 

今回上演される『二羽の鳩』(音楽:アンドレ・メサジェ)は17世紀に活躍したフランスの詩人ラ・フォンテーヌの寓話を下敷きにしています。

19世紀末にパリ・オペラ座でルイ・メラントの振付により上演されていましたが、それをアシュトンがジョン・ランチベリーの編曲を得て、1961年、ロイヤル・オペラ・ハウスで全2幕のバレエとして新たに上演しました。

 

アシュトン版の舞台はパリ。ジプシーの娘に恋した青年画家が許嫁の少女の下へと戻るラブストーリーで、愛の美しさ、気高さが繊細に描かれます。

日本では小林紀子バレエ・シアターが1992年以降たびたび上演しています。

 

このたび披露される第2幕よりパ・ド・ドゥは、若いカップルが愛を取り戻す名場面です。

 

少女を踊る小林紀子バレエ・シアターのプリンシパル島添亮子さんは、アシュトン作品を始めとする英国バレエの機微に通じています。

令和元年度(第70回)芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど多くの賞に輝いている名バレリーナです。

 

共演する厚地康雄さんも『二羽の鳩』をレパートリーにしているバーミンガム・バレエのプリンシパルとして活躍中です。

 

日英の名手による味わい深い名演にご期待ください。

 

 

『二羽の鳩』よりパ・ド・ドゥ
振付:フレデリック・アシュトン
出演:島添亮子(小林紀子バレエ・シアター)、厚地康雄(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)
音楽:アンドレ・メサジェ
編曲:ジョン・ランチベリー
公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

Vol.7上野水香&柄本弾(東京バレエ団)インタビュー マ・パブロワより『タイスの瞑想曲』

「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」の紹介第7弾は東京バレエ団の上野水香さんと柄本弾さんです。今回お2人が踊るのは、フランスの名匠ローラン・プティ(1924~2011年)のマ・パブロワより『タイスの瞑想曲』。若き日、プティに認められ世に出た上野さん、東京バレエ団を代表する男性ダンサーとして活躍し上野さんと共演を重ねる柄本さんに、プティ作品の魅力や公演への抱負をお聞きしました。

 

――上野さんは東京バレエ団に入団される前の牧阿佐美バレヱ団時代にローラン・プティの作品を多く踊って注目されました。プティとの出会いを振り返っていただけますか?

 

上野 『ノートルダム・ド・パリ』のオーディションに来られ、コール・ド・バレエ(群舞)にいた私を見て「あの子にもトウシューズを履かせてみて!」とおっしゃいました。私は当時まだ18歳でしたが、主役のエスメラルダのアンダー(控え)に選ばれました。

 

プティさんはインスピレーションが強い方でした。私を見出し、いろいろな可能性を示してくれました。私の踊りに関する感性や美意識を引き出し「こんな君もいるんだよ。魅力的なんだよ。こういう踊りをすると君は魅せられるし、こういう実力があるんだよ」ということを作品を通して教えてくださいました。プティさん抜きに今の自分はないですね。

 

今でも海外でクラスレッスンを受けていると、私のことを知らない方からフランス語で話しかけられることがあります。それくらい私の踊りはフランスの香りがするみたいです。それはプティさんがフランスの踊りを教えてくださったことが大きいと思います。

 

――今年(2021年)でプティ没後10年になります。上野さんは、あらためてプティ作品に接してどのような印象をお持ちですか?

 

上野 プティさんの作品には、いわゆるエスプリがあります。お洒落で、垢抜けていて、それでいて何か精神性がある。上半身や顔の表情にもフランスらしさ、洒落っ気があります。女性らしさを強調するところもあります。脚に対する美学も強いですね。プティさんにしかない魅力とは、洒落っ気だと思うんです。彼はフレッド・アステアが好きで、ジャズっぽさも少し混じっています、そういうニュアンスとクラシック・バレエが融合し、そこにフランス的感性も加わって、誰も真似できないスタイルが生まれたんだと思います。

 

あとエネルギーですね。ダンサーに必要なのは強さだと身をもって教えてくれました。プティさんの作品は一見線が細く見えそうなんですけれど、実はもの凄く強い女性じゃなきゃできない。そこが彼の求める女性像だと思います。美しくなくてはいけない。そして誰よりも強くなければいけない。『若者と死』の死神も、『ノートルダム・ド・パリ』のエスメラルダも、『カルメン』のカルメンも、もの凄く魅力的じゃなきゃいけないんです。自立した芯の強い女性で、色気も必要ですが、それは強さから来ていると思います。

 

――柄本さんは2014年にプロデュースバレエ「Jewels from MIZUKA」に出演した際、プティの『ジムノペディ』と『シャブリエ・ダンス』を踊りました。その時がプティ作品初出演だそうですね。踊られてどのように感じましたか?

 

柄本 形が1つひとつしっかりしているという印象でした。特に見え方について(振付指導の)ルイジ・ボニーノさんに注意された記憶があります。自分たちのラインが前からだとどう見えるかといった点についてですね。女性をサポートするやり方は細かく決まっています。サポート時に男性が女性の前にいることもありますが、普段のクラシック・バレエではなかなかないことです。新しい表現の仕方、新しい形を教わり勉強になりました。

 

――その後『アルルの女』のフレデリ、上野さんと共演した『ボレロ』も踊りましたね。

 

柄本 『アルルの女』で得たものは大きかったですね。目の前にいない人(=幻影であるアルルの女)をいるように見せなければいけないんです。ストーリーを表現しなければならないので苦戦しました。ルイジさんに付きっきりで教えていただいたのですが、体力的にもテクニック的にも大変で、終わった後に燃え尽きました。ルイジさんから自分の内面を演技や目線でしっかりと表現しなければいけないということを教わりました。

 

『ボレロ』は先にベジャール版をやらせてもらっていたので、同じ曲で別の振付を覚えることに苦戦しました。左右に体を振るステップが多いんです。クラシック・バレエではそういうことはまずないですし。他の作品でもやったことのない動きなので苦戦しました。後半に向かって動きもどんどん白熱し、自分の内側のものを発散させるような作品なので得意とするところですが、大変だったという印象の方が残っています。

 

――「 International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」では、プティのマ・パヴロワより『タイスの瞑想曲』を踊ります。ジュール・マスネが作曲した歌劇「タイス」の間奏曲を用いたデュエットです。上野さんは2012年の世界バレエフェスティバルでマシュー・ゴールディングと踊っています。どのような作品ですか?

 

上野 いわゆるプティらしい作品という感じではない、という意味で非常に珍しいですね。シンプルに美しいパ・ド・ドゥです。男女の関係性についても、いわゆる「女性は強い」みたいな感じではなくて、普通にロマンティックなパ・ド・ドゥ。ドミニク・カルフーニさんのために創られた作品で、彼女の女性としての面を出している作品です。

 

抽象的で美しく踊ることがメインです。特徴的なのが、リフトの上下動が凄くあること。「再生」のような意識があるのでしょうか。私の勝手なイメージですが、そこを打ち出すことによって、作品性がより引き立つのではないかと。男女のパ・ド・ドゥですから、二人のコネクトが切れてしまってはいけません。気持ちが途切れると、見ている方の気持ちも途切れてしまうと思うので、2人でしっかりとリハーサルをします。

 

――柄本さんは初めてですが、踊るにあたって気を付けたいことは何ですか?

 

柄本 水香さんがマシューさんとやられていた時にリハーサルを少し見ていました。印象的なのは流れるような動きです。リフトも多いですが終始止まることがなく、流れ続けています。男性のサポート力が重要になります。流れを切らさないように見せたいです。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」では世界的振付家の作品を国内外で活躍する日本の精鋭ダンサーが踊ります。参加にあたっての期する思いは?

 

上野 トップで頑張っている人が集まり、普段と異なる環境で踊るので、テンションが上がります。中村祥子さんとはベルリンの「マラーホフ&フレンズ」以来久しぶりに同じ舞台に立ちます。日本では初めでなので「楽しみだね!」と話しています。祥子さんが踊るベジャール振付のソロ作品『椿姫のためのエチュード』や他の方の踊りが楽しみです。

 

柄本 バレエ団外のダンサーと公演で一緒になることはあまり多くないので、他のダンサーの踊りもしっかりと見て、学べるところは学びたいです。1つの公演にこれだけ多くの振付家の作品が入ることは稀なので、凄く面白い舞台になると思います。自分の本番以外は袖からずっと見ていたいくらいです。

 

――「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」は「横浜の“街”そのものが舞台」というのがコンセプトです。横浜に関する思い入れなどを教えてください。

 

上野 私は地元出身なので、神奈川県民ホールは自宅から一番近い大きな劇場でした。海外のバレエ団が来日した時も県民ホールに見に行くことが多かったです。私のプロデュースバレエ「Jewels from MIZUKA」を2回やらせていただき、年末の「ファンタスティック・ガラコンサート」に出させてもらっています。縁が深く、お世話になっている劇場で今回も踊れるのはうれしいです。

 

柄本 海風が凄く気持ちいい街ですね。温かくて優しいようなイメージの風です。(象の鼻パークで行われる)「横浜ベイサイドバレエ」の野外ステージに立った時もそう感じます。

 

――最後に公演に向けての意気込みをお願いします。

 

上野 リハーサルはルイジとリモートでやります。ローラン・プティの作品を踊ること、ルイジと仕事をすることは私にとって喜びです。『タイス』をまた踊りたいと思っていました。音楽と振りがマッチして素敵です。パリ・オペラ座で設えた衣裳もお気に入りです。

 

柄本 海外で踊るダンサーもいる中に声を掛けていただいたこと、プティさんの作品を踊らせてもらえることは光栄です。他の作品を踊るダンサーたちに負けないように精一杯頑張ります。プティさんの作品の良さをしっかりと表現してお客さんに伝えたいです。

 

写真は9/15に行われたリモート稽古の様子
Zoomの画面は振付指導者のルイジ・ボニーノ氏(東京バレエ団提供)
Photo:JPD

 

マ・パヴロワより『タイスの瞑想曲』
振付:ローラン・プティ
出演:上野水香(東京バレエ団)、柄本弾(東京バレエ団)
音楽:ジュール・マスネ
公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

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