Vol.2 佐久間奈緒&厚地康雄インタビュー 『スパルタクス』よりパ・ド・ドゥ【日本初演/Japan Premiere】
「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」の出演者紹介第2弾は、佐久間奈緒さん(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)と厚地康雄さん(バーミ ンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)です。
長年英国の名門バレエ団で活躍してきた2 人が踊るのは「スパルタクス」よりパ・ド・ドゥ(振付:デヴィッド・ビントレー、音楽:アラム・ハチャトゥリアン)。
公私にわたるパートナーであるお2人に、師匠のビントレーさんの大切な作品を日本で踊ることへの思いを語っていただきました。
――コロナ禍のバーミンガムでどう過ごされてきましたか?
佐久間 バレエ団でのクラス指導やリハーサルも全てなくなってしまったので、自宅でできるバーレッスンやエクササイズをしていましたが、やはり運動不足に感じ、ジョギングをしたりしていました。
あと、イギリスの学校は閉校の期間も長く、授業を進めるのはホームスクーリングといって、自宅で両親が科目別に教えないといけなかったので大変でした。
厚地 2度の大きなロックダウンがあったので、体のコンディションが戻るまでに時間がかかりました。
リビングルームでできる程度の自習やエクササイズをしていたのですが、大きなスタジオと広さが変わると運動量は全然違うので、筋力が落ちていると感じました。特にジャンプが元のように感じられるようになるまでは苦労しました。
――バーミンガム・ロイヤル・バレエ団では、2019年に芸術監督がデヴィッド・ビントレーさんからカルロス・アコスタさんに変わりました。何か変化を感じていますか?
厚地 僕は2006年に入団しました。デヴィッドの薦めもあり、新国立劇場バレエ団で踊っていた時期もありますが、この2つのバレエ団の芸術監督が彼だったため、違う監督と仕事をするという経験はありませんでした。バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の長く在籍しているダンサーたちも、彼の監督在任がほぼ25年と長かったために、誰もディレクションが変わるということを知らなかったのです。
デヴィッドの下では上演がなかった「ドン・キホーテ」(アコスタ版)からコンテンポラリーの新しい振付のクリエーションまで、レパートリーはかなり変わったように感じます。
――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」出演の経緯は?
厚地 「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」のディレクター小林十市さんとは以前、今回のディレクター補佐の山本康介さん(同じくバーミンガム・ロイヤル・バレエ団出身)の作品に出演した時に面識がありました。当時まだ若かった僕を褒めてくださって、とてもうれしく思いました。今回も康介さんから出演依頼をいただきました。
佐久間 私も康介くんからデヴィッドの作品の中から何か踊ってほしいとお話をもらいました。
――ビントレーさんの「スパルタクス」よりパ・ド・ドゥを踊ることに決めた理由は?
佐久間 デヴィッドに何を踊れば良いかと相談したら、彼がバレエ団を離れるシーズンに作った「スパルタクス」よりパ・ド・ドゥはどうかと提案されました。彼はこのバレエを全幕で作りたいという構想があるようで、まず手始めにこの部分をガラ公演のために振付したのです。その初演時に私は踊らなかったのですが、すぐに映像を送ってくださって、康雄くん、そして康介くんとも相談して決めました。
指導に関わるようになって以前ほどは踊っていないので不安もありましたが、デヴィッドもバーミンガムの「シンデレラ」の上演時期にリハーサルをしてあげるよと言ってくれたので心強かったです。
厚地 デヴィッドは凄くうれしそうでした。最初の1回だけでは満足していない部分もあったみたいで、初演時よりも変わったバージョンでやっています。僕たちが踊ってくれてうれしいと彼自身も喜んでくださいました。
リハーサルもコロナ禍に対応しており、本番もある忙しい時期に本当に丁寧に見て下さったので感謝しています。
――「スパルタクス」はローマ時代の反乱軍の首領であるスパルタクスを描いています。今回踊るのは、スパルタクスと妻のフリーギアの別れの場面です。「スパルタクス」といえば、ボリショイ・バレエが上演しているユーリー・グリゴローヴィチのバージョンが有名ですが、ビントレーさんのパ・ド・ドゥの特徴はどこにありますか?
佐久間 皆さんの知っているバージョンと違うところは、フリーギアのお腹の中に子供がいることを伝える点です。
演劇性を持ってどういう場面かわかりやすくするために、そこを強調しています。
――リハーサルでビントレーさんはどのように膨らませたのですか?
厚地 最初はビデオを見て振りを覚えたのですが、1つ1つのステップのニュアンスを教え、直してくれました。デヴィッドの作品は注意されればされるほど振付が大変になるんですよ。デヴィッドの希望通りに全部やっていくと、どんどん大変になっていくんです(笑)。
佐久間 初演時のステップや動作を少し見直したり、また私たちにも合ったように細かい部分も精査したりしながら進めていきました。彼との久しぶりのリハーサルはいまだに新鮮で、そして懐かしい思いでいっぱいでした。
――ビントレーさんの作品は音楽的だと称されますね。
佐久間 デヴィッドの音楽性はとても繊細で、動きと旋律が沿って動くような気がします。
彼の演劇的解釈とその動きが合うと、音楽やパートナーに身を委ねてとてもスムーズに踊っているような感じです。
厚地 デヴィッドの作品を踊りながらダンサーとして育ててもらったようなものなので、ここはこう動いて欲しいのかなとか、ここはこんなことを伝えたいのかなというふうな感じはわかります。でも、あらためてそれを体で表現することの難しさに向き合っています。
――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」は、世界的振付家と日本人ダンサーのコラボレーションというのがコンセプトです。他にも国内外で活躍しているダンサーの方々が登場します。参加するにあたっての期する思いは?
厚地 偉大な振付家の作品を背負う役割とそれらの踊りが自然に見えるよう、そしてお客様にも楽しんでいただけるように、心を込めて踊りたいです。
佐久間 私にとっても新しい作品と向き合うことができたので、その練習の成果、そして何よりもこの作品の良さを感じていただきたいです。
厚地 皆さんがいろんな趣向やスタイルのものを踊り合っていくということが素晴らしいと思います。自分も影響しつつ、されつつ同じ舞台に立てることを楽しみにしています。
佐久間 そうですね。皆さんの踊られる演目を拝見できるのも嬉しいです。
――久々に日本でビントレーさんの作品を踊ることへの意気込みをお願いします。
佐久間 康雄くんと日本でデヴィッドの作品を踊れることは、私にとって特別な機会です。
今だからできる踊りで初挑戦する「スパルタクス」、気持ちを込めて踊ります。
厚地 デヴィッドは「シンデレラ」の指導期間中、長時間のリハーサルの後でも時間と労力を惜しまず見てくれました。そして何より、彼なしでは僕はここまで来られなかった。ダンサーであったり、プロフェッショナルであったり、芸術家がどういうものなのかを仕事を通して教えてくれました。
そんな彼に感謝の気持ちを込めて踊りたいです。
佐久間 どこかのバレエ団が全幕を作りたいといってくれないでしょうか(笑)。
――厚地さんは「二羽の鳩」よりパ・ド・ドゥ(振付:フレデリック・アシュトン)を島添亮子さん(小林紀子バレエ・シアター プリンシパル)と共演します。抱負をお聞かせください。
厚地 「二羽の鳩」は最初にバレエ団でコール・ド・バレエ(群舞)をやった時に衝撃を受けました。まず音楽の美しさに心打たれました。今回やるパ・ド・ドゥが大好きで、毎回袖から見ていました。全幕で主役をやったことはないのですが、ガラで奈緒さんと数回踊りました。特に終盤の部分は今でも舞台上で胸が高鳴り、大好きな作品です。
島添さんは”ザ・主役”という感じの方。掛け合いが大事な作品なので、2人でどのように積み上げていくのかというプロセスも楽しみです。
――「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」は「横浜の“街”そのものが舞台」というのがコンセプトです。横浜に関する思い出等はありますか?
厚地 僕は遊びに何回も行ったことがあって好きです。海もあり気持ち良く、街並みもきれいですよね。
ガラ公演に出る機会が何度かあって、その時も中華街に行きました。
佐久間 バーミンガム・ロイヤル・バレエ団が2011年に鎌倉芸術館で「眠れる森の美女」 を踊った時の宿泊先が横浜でした。
残念ながらその時は街を楽しむ時間がありませんでしたが、今回はいろいろ周ってみたいです。中華街は行ってみたいです。
イギリスのご自宅とお繋ぎして、Zoomでインタビューをさせて頂きました。
『スパルタクス』よりパ・ド・ドゥ【日本初演】
振付:デヴィッド・ビントレー
出演:佐久間奈緒、厚地康雄(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)
音楽:アラム・ハチャトゥリアン