Dance Dance Dance@YOKOHAMA 2021

Vol.3 鳴海令那&小㞍健太インタビュー 『A Picture of You Falling』より

「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」の紹介第3弾は鳴海令那さんと小㞍健太さんです。お2人が踊るのはクリスタル・パイト振付『A Picture of You Falling』より。名門パリ・オペラ座やロイヤル・バレエからも創作を依頼されるパイトは今最も注目されているといっても過言ではない21世紀の名振付家です。ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)などを経て以前研修生として所属したパイトのカンパニーKidd Pivotに戻り団員として踊る鳴海さん、NDT出身で現在日本を拠点にダンサー、振付家として幅広く活躍する小㞍さんに、パイトの創作の裏側や公演への意気込みをお聞きしました。

 

――クリスタル・パイトとの出会いはいつですか?

 

鳴海 フランスを経てバンクーバーに拠点を移した時に初めてクリスタルの舞台と出会いました。『Lost Action』(2006年)という作品でした。当時クリスタルも現役で踊っていて、彼女のパフォーマンスに一瞬にして魅了されました。動きやダンサーのクオリティ、作品の構成も興味深く鳥肌が立ちました。Kidd Pivotで研修生として2年過ごせたのは本当に貴重な経験です。クリスタルはいつも優しく、そして、さまざまなアイディアにあふれている方で彼女の考えや発想にとても刺激を受けました。

 

小㞍 僕がNDTに在籍していた2004年に、アンダーシュ・ヘルストロン(元フランクフルト・バレエのダンサー)が芸術監督になり、クリスタルがゲスト振付家としてNDT1に招聘された時に初めて会いました。僕はまだNDT2だったので客席から見ていたのですが、彼女はウィリアム・フォーサイス(フランクフルト・バレエを率いて現代バレエに革新をもたらした振付家)の元で踊っていたのでその影響も強いと感じると同時に、クリスタルの振付はアイソレーション(特定の部位を強調して動かすこと)など技術的な身体性が、不思議と身近なストーリーと交わりエモーショナルに見えてきてとても魅かれました。その後、NDTの在籍中に彼女のクリエーションに4回ほど参加しましたが、イリ・キリアン(NDTを世界的舞踊団へと押し上げた巨匠振付家)とは違うプロセスで毎回僕にとって新しい経験となりました。

 

――パイトのクリエーションはどのように進むのですか?

 

鳴海 作品によって進行の仕方が異なりますが、アイディアや構成などはスタジオで実際にクリエーションに入る時にはいつも準備万端です。振付(動き)自体はクリスタルのフレーズがあって、それをダンサーたちが組み替えたり、タスクを動きに変えたりします。あと、彼女がリードしてインプロ(即興)のセッションをしてシーンを作り上げることも多いですね。彼女からあたえられたタスクを忠実に磨き上げていただけなのに、気が付いたら作品になっているというマジックがあります。

 

小㞍 振付のコンビネーションが断片としてあるんです。そのコンビネーションは、クリスタル自身が作ったものもあれば、肩を回して体をひねりながら振り向いたりなどという動作のタスクをあたえられダンサーが作ることもあります。また、シンプルなジェスチャーのアプローチも多くて、「黄昏のポーズを作って!」というのは印象的だったので覚えています(笑)。そうしてできたコンビネーションをキャスト全員でシェアして、それらを基にユニゾンやデュエットなどさまざまなパートが出来上がっていきました。

 

――今回踊られる『A Picture of You Falling』は「The You Show」(2010年)という作品の中の1パートだそうですね。「The You Show」はどういう作品なのですか?

 

鳴海 「The You Show」とは公演タイトルです。このクリエーション前に作られていた作品『A Picture of You Falling』と+3つの小作品(デュエット)で構成されています。『A Picture of You Falling』は男女のデュエットで相手がいるけどいないような、会話があるようですれ違っていくような切なさがあります。2番目の『The Other You』は健太さんも踊られたことのある作品で、男性デュエットの双子のような、もう一人の自分の存在に気付かされるような作品。続く『Das Glashau』は男女の複雑な関係性を感じさせるデュエット。最後の『A Picture of You Flying』は、スーパーヒーローの心の内をベースにしたデュエットがメインのグループ作品になります。この作品は私にとってクリスタルとの初めてのクリエーションでした。

 

小㞍 4つの小品集である「The You Show」について、レペティター(振付指導者)が話してくれたのですが、クリエーション当時クリスタルが妊娠していて動いて見せることができないこともあり、振付の大部分はダンサーに託されたそうです。クリスタルからのタスクを各々のダンサーが動きに変えながら創り出した作品なので、全ての要素に”あなた”が含まれている意味もあると聞きました。 今回はそのうちの1つ『A Picture of You Falling』の抜粋を踊ります。このパートはもともとNDTで初演された『The Second Person』(2007年)の一部でもあります。実は僕が初めて踊ったクリスタルの作品で、いまだに独特なナレーションを聞くと当時のクリエーションのことを思い出します。このパートは、当時NDTに在籍していたベテランのダンサーが踊っていたデュエットだったので、こうしてこの歳になって踊れることがうれしいです。

 

鳴海 健太さんのNDTでの素敵な思い出と同様、私にとっても研修当時の風景が蘇ります。オリジナルキャストの素晴らしいダンサーたちを間近で見ていて大好きな作品でしたし、いつか踊ってみたいと思っていたので、こうして踊る機会をいただけて私もとてもうれしいです。

 

――『A Picture of You Falling』にはナレーションが入ります。2019年にNDT日本公演で上演された『The Statement』(2016年)もそうでしたが、パイト作品には台詞が入ることが少なくないようですね。動く時にどう感じますか?

 

小㞍 自身で発する言葉だとやはり感情が入ったりしますが、音楽のように捉えているのか、感情が先にないのです。素直に入っていけます。

 

鳴海 私の中ではテキストも音楽と捉えているので言葉の有無で変わりませんが、踊っていると操られてるように感じたり、こちらが逆にリードしていけたりします。クリスタルのストーリーラインと共に常に自分でもリサーチし進化していけるスペースがあるように感じます。

 

――今回、お2人のリハーサルはどのようにするのですか?

 

小㞍 カナダ在住のクリスタル、またはアメリカ在住のレペティターからリモート指導を受ける予定です。令那ちゃんとは、知り合って10年以上で仲はいいのですが、NDTでも被っていないので、実は今回初めての共演です!

 

鳴海 リモートリハーサルを通して、皆でこの作品をシェアできるのがとても楽しみです。健太さんは尊敬するアーティスト。ローザンヌ国際バレエコンクールに出ていらした時から健太さんの踊りが好きで拝見していました。今回一緒に踊れて本当にうれしいです。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」では世界的振付家の作品を国内外で活躍する日本のダンサーが踊ります。出演が決まり何を思いましたか?

 

小㞍 ディレクターの小林十市さん、山本康介くん(DDD2021ディレクター補佐で本企画の構成・演出を担当)、中村祥子ちゃん、上野水香ちゃん、厚地康雄くんなど昔から知っているダンサーの仲間とこうして公演を作ることができるのはうれしいですね。日本に帰国してバレエ界からは「コンテンポラリーの人」って言われていますが、僕の体の中にはバレエがあって、その上でキャリアを積んできました。今回、バレエにはいろいろな幅と可能性があることを見せていける機会に声をかけていただけて光栄です。また、クリスタル・パイト率いるカンパニーKidd Pivotで活躍する鳴海令那ちゃんをぜひ日本の皆さんに知っていただきたいと思い、今回共演をお願いしました。初共演、楽しみです!

 

鳴海 健太さんから公演のお話をいただきとてもうれしいです。他にも素晴らしいダンサーの方々が出演されていて緊張もしていますが、貴重な舞台に参加させていただけて光栄です。先ほど、健太さんもお話しされていたバレエの幅と通じるのですが、日本では「コンテンポラリーダンス」の意味合いも広いので、日本に帰って来た時「どういうダンスをされているんですか?」と聞かれて返答に困ることがあります。「コンテンポラリーダンス」という名前が浸透してきているのは凄くうれしいですが、私がやっている踊りは「バレエ」の中の「コンテンポラリー作品」と捉えています。今回はバレエの中にも幅があること、進化していることをお客さんに感じてもらえるような、本当に素晴らしいプログラムです。出演者の皆さんの踊りを拝見できるのもとても楽しみです。

 

――「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」は「横浜の“街”そのものが舞台」というのがコンセプトです。横浜に関する思い出等はありますか?

 

小㞍 現在横浜に住んでいます。祖父母が横浜にいたので、親戚が集まるのはいつも中華街でした。中華街や山下公園、横浜スタジアムは思い出深い場所で、神奈川県民ホールにはバレエを見に来ていました。海外っぽいし開放感ありますね。

 

鳴海 日本にいた頃は家族でドライブに来ていました。中華街や赤レンガ倉庫のイベントに行ったり、ランドマークホールで行われたバレエの講習会を受けたりもしました。海が近くて開放感があります。近年新しくできた建物とかも素敵ですよね

 

――公演に向けての意気込みをお願いします。

 

鳴海 日本で踊るのは11年ぶりです。コロナになって長らく舞台で踊れていないので、純粋に本番の緊張感と劇場全体の空気感を大切にしたいです。そして、この作品を健太さんと共に楽しみ、私たちのパフォーマンスを通してクリスタルの世界をお客様にも感じていただけるとうれしいです。

 

小㞍 いいデュエットにしていきたいですね。男女の壊れていく関係性を表した切ない作品なのですが、2人の身体から、空間、会話、思い出、感情が走馬灯のように浮かび上がるダンスになれたらと思います。瞬間瞬間を大事にして、観客の皆さんに届くように踊りたいと思っています。

 

 



リハーサル中のスタジオの様子(稽古用動画からキャプション)

 

『A Picture of You Falling』より
振付:クリスタル・パイト
出演:鳴海令那(Kidd Pivot)、小㞍健太
音楽:オーエン・ベルトン

公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

アイコン画像:上矢印