Dance Dance Dance@YOKOHAMA 2021

Vol.5 池本祥真(東京バレエ団)インタビュー 『M』

「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」の紹介第5弾は池本祥真さん(東京バレエ団)です。池本さんは王子役からキャラクター色の強い役柄まで幅広く踊っていますが、近年注目されているのが、モーリス・ベジャール作品です。本公演で今回踊るベジャールの『M』に向けての意気込みをお聞きしました。

 

――昨年(2020年)10月、東京バレエ団のベジャール振付『M』でⅣ—シ(死)を踊りました。「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」ディレクターの小林十市さんが1993年の世界初演時に踊った役でもあります。作家・三島由紀夫の文学と人生をテーマにしたバレエ作品の狂言回し的な役ですが、役作りをどのように進めたのですか?

 

池本 十市さんが指導に来てくださり、振りを教えていただきました。そこをベースに、十市さんの次にⅣ—シ(死)を踊られた飯田宗孝先生(東京バレエ団団長)やゲストで指導に来られた方々にアドバイスをいただき、自分の味付けをしていきました。

 

――「自分の味付け」というのは?

 

池本 リハーサルを重ねていくうちに、自然と自分の中から出てくるものを増やしていきました。十市さんもおっしゃっていますが、Ⅳ—シ(死)は多面的です。役名から思い浮かぶことが全部役柄に当てはまるんじゃないかなと思って、イメージを膨らませる作業をしました。たとえば「死」と聞いて怖いなと感じました。美しい死というのもあるかもしれないので、それを表現したかったです。「死」とは絶対的だと思うところもありました。

 

――三島の小説などを読んで役作りされたのかと思いましたが、そうではなかったとか?

 

池本 必要ならば読もうと思っていました。でも、踊っていく中で、三島由紀夫という存在を理解していないと踊れない、というわけではないと思いました。三島の話というよりも、一人の人間としての物語というか、誰にでもあり得る人生の話なのではないか。そこが、今、この時代に僕らが踊る上で大事です。

 

――Ⅳ—シ(死)を踊っての実感は?

 

池本 しんどいです(笑)。体力的にもしんどいし、1時間半以上休憩がないので集中していないといけません。自分の集中が途切れると、お客さんも離れてしまいます。僕がストーリーを作るというよりも、場面場面に意味を持たせていく。僕がコーディネートしてやる役だと思います。十市さんが教えてくださった振りと形に、場面場面の僕の思いをのせて踊ることによって、1つの作品として成立するんじゃないかなと。一場面、一場面を丁寧にやっていくと、素晴らしいものができあがっていくのを感じました。

 

――ベジャール作品では『ザ・カブキ』勘平、『ギリシャの踊り』ソロ、『舞楽』火の精なども踊られています。ベジャール作品を踊って感じている魅力とは?

 

池本 クラシック・バレエとは少し違う、ベジャールさんの形というのが強いんですね。その形をできるようになることで表現が出来上っていくんだなと感じます。僕が表現するというよりも、指導してもらった形をやった時に自分の存在としての魅力が凄く出ます。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」では、ベジャールの『M』を踊ります。これは『M』全幕からの抜粋ではないそうですね。『M』の「金閣寺」の場面でⅣ—シ(死)が踊るソロと、『ザ・カブキ』の由良之助のソロにより構成されています。小林十市さんがベジャールに振付してもらった特別なバージョンだとうかがいました。

 

池本 十市さんがロイヤル・オペラ・ハウスのガラ公演に出る時に創ってもらったそうです。ベジャールさんは十市さんに合うじゃないかと思われたのでしょう。

 

――小林十市さんによる指導が始まっています。リハーサルの印象はいかがですか?

 

池本 純粋にしんどいです(笑)。『M』の「金閣寺」を踊ったことはありましたが、由良之助は未知なので、柄本弾くんにまず振りと流れを教えてもらって、その後に十市さんに見ていただいています。十市さんがベジャールさんに見てもらって踊った時に「こうした方がいいんじゃないか」と教わったニュアンスを加えながらリハーサルをしています。

 

――具体的にどのようなアドバイスですか?

 

池本 作品や表現に関してよりも、「指は閉じたほうがいいよ」といった細かいニュアンスについてです。本当に細かいところから全体を作り上げていくリハーサルです。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」は、世界的振付家の作品を国内外で活躍する日本のダンサーが踊る企画です。出演が決まった時のお気持ちは?

 

池本 僕が1人で出て大丈夫なのかなと思いました。十市さんには「僕が責任をとるから、頑張って!」と励まされました。素晴らしい出演者の方々の中でソロを踊るのは光栄です。

 

――「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」のコンセプトは「横浜の“街”そのものが舞台」です。横浜に関する思い入れはありますか?

 

池本 よく遊びに行きます。みなとみらいとかを散歩するのが好きです。横浜自体が日本的ではないというか、海外のような雰囲気があるので好きですね。

 

――あらためて公演に向けての意気込みをお話しください。

 

池本 ベジャールさんの作品、しかも十市さんが初演されて以来やられていない作品を踊らせていただけるのは光栄でうれしいです。作品の良さをしっかりと届けたいです。

 

 

 

舞台写真は2020年11月、神奈川県民ホールで行われた『M』より(東京バレエ団提供)
Photo:Kiyonori Hasegawa / Kanagawa Kenmin Hall

 

 

『M』
振付:モーリス・ベジャール
出演:池本祥真(東京バレエ団)
音楽:黛敏郎
公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

アイコン画像:上矢印