Dance Dance Dance@YOKOHAMA 2021

Vol.7上野水香&柄本弾(東京バレエ団)インタビュー マ・パブロワより『タイスの瞑想曲』

「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」の紹介第7弾は東京バレエ団の上野水香さんと柄本弾さんです。今回お2人が踊るのは、フランスの名匠ローラン・プティ(1924~2011年)のマ・パブロワより『タイスの瞑想曲』。若き日、プティに認められ世に出た上野さん、東京バレエ団を代表する男性ダンサーとして活躍し上野さんと共演を重ねる柄本さんに、プティ作品の魅力や公演への抱負をお聞きしました。

 

――上野さんは東京バレエ団に入団される前の牧阿佐美バレヱ団時代にローラン・プティの作品を多く踊って注目されました。プティとの出会いを振り返っていただけますか?

 

上野 『ノートルダム・ド・パリ』のオーディションに来られ、コール・ド・バレエ(群舞)にいた私を見て「あの子にもトウシューズを履かせてみて!」とおっしゃいました。私は当時まだ18歳でしたが、主役のエスメラルダのアンダー(控え)に選ばれました。

 

プティさんはインスピレーションが強い方でした。私を見出し、いろいろな可能性を示してくれました。私の踊りに関する感性や美意識を引き出し「こんな君もいるんだよ。魅力的なんだよ。こういう踊りをすると君は魅せられるし、こういう実力があるんだよ」ということを作品を通して教えてくださいました。プティさん抜きに今の自分はないですね。

 

今でも海外でクラスレッスンを受けていると、私のことを知らない方からフランス語で話しかけられることがあります。それくらい私の踊りはフランスの香りがするみたいです。それはプティさんがフランスの踊りを教えてくださったことが大きいと思います。

 

――今年(2021年)でプティ没後10年になります。上野さんは、あらためてプティ作品に接してどのような印象をお持ちですか?

 

上野 プティさんの作品には、いわゆるエスプリがあります。お洒落で、垢抜けていて、それでいて何か精神性がある。上半身や顔の表情にもフランスらしさ、洒落っ気があります。女性らしさを強調するところもあります。脚に対する美学も強いですね。プティさんにしかない魅力とは、洒落っ気だと思うんです。彼はフレッド・アステアが好きで、ジャズっぽさも少し混じっています、そういうニュアンスとクラシック・バレエが融合し、そこにフランス的感性も加わって、誰も真似できないスタイルが生まれたんだと思います。

 

あとエネルギーですね。ダンサーに必要なのは強さだと身をもって教えてくれました。プティさんの作品は一見線が細く見えそうなんですけれど、実はもの凄く強い女性じゃなきゃできない。そこが彼の求める女性像だと思います。美しくなくてはいけない。そして誰よりも強くなければいけない。『若者と死』の死神も、『ノートルダム・ド・パリ』のエスメラルダも、『カルメン』のカルメンも、もの凄く魅力的じゃなきゃいけないんです。自立した芯の強い女性で、色気も必要ですが、それは強さから来ていると思います。

 

――柄本さんは2014年にプロデュースバレエ「Jewels from MIZUKA」に出演した際、プティの『ジムノペディ』と『シャブリエ・ダンス』を踊りました。その時がプティ作品初出演だそうですね。踊られてどのように感じましたか?

 

柄本 形が1つひとつしっかりしているという印象でした。特に見え方について(振付指導の)ルイジ・ボニーノさんに注意された記憶があります。自分たちのラインが前からだとどう見えるかといった点についてですね。女性をサポートするやり方は細かく決まっています。サポート時に男性が女性の前にいることもありますが、普段のクラシック・バレエではなかなかないことです。新しい表現の仕方、新しい形を教わり勉強になりました。

 

――その後『アルルの女』のフレデリ、上野さんと共演した『ボレロ』も踊りましたね。

 

柄本 『アルルの女』で得たものは大きかったですね。目の前にいない人(=幻影であるアルルの女)をいるように見せなければいけないんです。ストーリーを表現しなければならないので苦戦しました。ルイジさんに付きっきりで教えていただいたのですが、体力的にもテクニック的にも大変で、終わった後に燃え尽きました。ルイジさんから自分の内面を演技や目線でしっかりと表現しなければいけないということを教わりました。

 

『ボレロ』は先にベジャール版をやらせてもらっていたので、同じ曲で別の振付を覚えることに苦戦しました。左右に体を振るステップが多いんです。クラシック・バレエではそういうことはまずないですし。他の作品でもやったことのない動きなので苦戦しました。後半に向かって動きもどんどん白熱し、自分の内側のものを発散させるような作品なので得意とするところですが、大変だったという印象の方が残っています。

 

――「 International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」では、プティのマ・パヴロワより『タイスの瞑想曲』を踊ります。ジュール・マスネが作曲した歌劇「タイス」の間奏曲を用いたデュエットです。上野さんは2012年の世界バレエフェスティバルでマシュー・ゴールディングと踊っています。どのような作品ですか?

 

上野 いわゆるプティらしい作品という感じではない、という意味で非常に珍しいですね。シンプルに美しいパ・ド・ドゥです。男女の関係性についても、いわゆる「女性は強い」みたいな感じではなくて、普通にロマンティックなパ・ド・ドゥ。ドミニク・カルフーニさんのために創られた作品で、彼女の女性としての面を出している作品です。

 

抽象的で美しく踊ることがメインです。特徴的なのが、リフトの上下動が凄くあること。「再生」のような意識があるのでしょうか。私の勝手なイメージですが、そこを打ち出すことによって、作品性がより引き立つのではないかと。男女のパ・ド・ドゥですから、二人のコネクトが切れてしまってはいけません。気持ちが途切れると、見ている方の気持ちも途切れてしまうと思うので、2人でしっかりとリハーサルをします。

 

――柄本さんは初めてですが、踊るにあたって気を付けたいことは何ですか?

 

柄本 水香さんがマシューさんとやられていた時にリハーサルを少し見ていました。印象的なのは流れるような動きです。リフトも多いですが終始止まることがなく、流れ続けています。男性のサポート力が重要になります。流れを切らさないように見せたいです。

 

――「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」では世界的振付家の作品を国内外で活躍する日本の精鋭ダンサーが踊ります。参加にあたっての期する思いは?

 

上野 トップで頑張っている人が集まり、普段と異なる環境で踊るので、テンションが上がります。中村祥子さんとはベルリンの「マラーホフ&フレンズ」以来久しぶりに同じ舞台に立ちます。日本では初めでなので「楽しみだね!」と話しています。祥子さんが踊るベジャール振付のソロ作品『椿姫のためのエチュード』や他の方の踊りが楽しみです。

 

柄本 バレエ団外のダンサーと公演で一緒になることはあまり多くないので、他のダンサーの踊りもしっかりと見て、学べるところは学びたいです。1つの公演にこれだけ多くの振付家の作品が入ることは稀なので、凄く面白い舞台になると思います。自分の本番以外は袖からずっと見ていたいくらいです。

 

――「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」は「横浜の“街”そのものが舞台」というのがコンセプトです。横浜に関する思い入れなどを教えてください。

 

上野 私は地元出身なので、神奈川県民ホールは自宅から一番近い大きな劇場でした。海外のバレエ団が来日した時も県民ホールに見に行くことが多かったです。私のプロデュースバレエ「Jewels from MIZUKA」を2回やらせていただき、年末の「ファンタスティック・ガラコンサート」に出させてもらっています。縁が深く、お世話になっている劇場で今回も踊れるのはうれしいです。

 

柄本 海風が凄く気持ちいい街ですね。温かくて優しいようなイメージの風です。(象の鼻パークで行われる)「横浜ベイサイドバレエ」の野外ステージに立った時もそう感じます。

 

――最後に公演に向けての意気込みをお願いします。

 

上野 リハーサルはルイジとリモートでやります。ローラン・プティの作品を踊ること、ルイジと仕事をすることは私にとって喜びです。『タイス』をまた踊りたいと思っていました。音楽と振りがマッチして素敵です。パリ・オペラ座で設えた衣裳もお気に入りです。

 

柄本 海外で踊るダンサーもいる中に声を掛けていただいたこと、プティさんの作品を踊らせてもらえることは光栄です。他の作品を踊るダンサーたちに負けないように精一杯頑張ります。プティさんの作品の良さをしっかりと表現してお客さんに伝えたいです。

 

写真は9/15に行われたリモート稽古の様子
Zoomの画面は振付指導者のルイジ・ボニーノ氏(東京バレエ団提供)
Photo:JPD

 

マ・パヴロワより『タイスの瞑想曲』
振付:ローラン・プティ
出演:上野水香(東京バレエ団)、柄本弾(東京バレエ団)
音楽:ジュール・マスネ
公演の詳細は:https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/

アイコン画像:上矢印